Coaching

ワークアウトのモチベーションを下げる「脳の疲れ」の正体

脳の疲れはパフォーマンスの低下につながるが、気力が衰えているときでも肉体的なエネルギーを高い状態に維持する方法がある。

最終更新日:December 23, 2020
精神的エネルギーを高めて運動能力をアップ

1.6kmの距離を9分間で走る快適なペースが、今朝は7分間で走るような感覚だったとしたら、筋肉ではなく、頭の中に問題があるかもしれない。

『Medicine and Science in Sport and Exercise』誌に、次のような新しい研究結果が発表された。研究の対象者はプロの長距離ランナー。指示されたタイミングですばやくキーを押すなどのコンピュータを使ったタスクに45分間取り組んだあと、ランナーは力の限り走り続ける。その後、ランナーはドキュメンタリー映画を見た後に同じランニングテストを実施。その際、ランナーがギブアップするまでの距離は、1回目よりも短くなっていたという。両方のテストを比較すると、心拍数、酸素消費量、乳酸濃度は同じだった。つまり、体ではなく、脳が何らかのダメージを受けていたことがわかったのだ。

「精神的な疲労は、自覚的な負担の量を増やします」自覚的な負担の量とは、自覚的運動強度(RPE)としても知られ、ランニング中に費やした労力を主観的に捉えた指標のこと。説明するのは、この研究を主導したブラジル・サンパウロ大学生理学科准教授ブルーノ・モレイラ・シルバ博士だ。前述の2回目のテストでランナーの走行距離が1回目よりも落ちたのは、ここに理由があると考えられる。

精神的疲労の科学

15キロのランや高負荷トレーニングのHIITに取り組んだ後に体が疲れるように、仕事で長い1日を過ごした後や、たった数分間でもハードなタスクをこなした後は精神的に疲れてしまうことがあると、オーストラリア・キャンベラ大学スポーツ運動研究所准教授クリスティ・マーティンは語る。精神的疲労、簡単な言葉で言い換えれば「頭の疲れ」を引き起こすタスクは、一般的に「非常に難しい、または非常に退屈なため、できればやりたくないもの」だとマーティンは説明する。

別の研究では、頭の疲れがエアロバイクで特定の体力レベルを保つ能力、プランクなどのアイソメトリックエクササイズをキープする力、1,500mを泳ぐためのスピードをキープする力に悪影響を与えることがあるという結果が出ている。だが、もうお気付きかもしれないが、これらの運動はすべて瞬発的に全力を出すものではない。マーティンによれば、これは「自分でペース配分をする必要のあるアクティビティ」が、持続させるために意識的な努力を行い、決断することが必要になるからだという。「また、精神的疲労は主観的な労力の量を増やすため、時間が経つにつれ決断が難しくなります」マーティンは語る。一方、20秒間のダッシュの場合、考えたりモチベーションを失ったりする時間はない。

精神的疲労、簡単な言葉で言い換えれば「頭の疲れ」を引き起こすタスクは、一般的に「非常に難しい、または非常に退屈なため、できればやりたくないもの」

クリスティ・マーティンキャンベラ大学スポーツ運動研究所准教授

脳の疲れの兆候は簡単に把握できる。たとえば、サッカーの試合中なら、エネルギーが不足する、努力する気力がなくなる、気分が変わる、反応が遅くなる、集中が続かなくなる、精度が低くなるといった症状で、目標に対する集中力が低下していく。だが、これらの症状が起きる理由を特定するのは、脳を開いて見るでもしない限り難しい。

マーティンと彼女の同僚が最近の研究結果にまとめた学説は、自覚的な運動、タスクに対する忍耐力、労力に対する報酬の処理をコントロールする脳の部位にある「アデノシン」と呼ばれる複合物の集合体を中心としている。アデノシンは、ハードな精神的および身体的なアクティビティによって生成される。そして、研究者たちは、アデノシンが脳内に蓄積されるほど、ペダルを踏み続ける、プランクをキープする、泳ぎ続けるために、脳がより強力な信号を送らなければならなくなると考えている。タスクが難しくなったと感じるのは、これが理由だと考えているのだ。また、アデノシンはモチベーションを調節する化学物質のドーパミンの放出を抑えるため、精神面に二重のダメージを与えるのだ。

精神的エネルギーを高めて運動能力をアップ

だが、良いニュースもある。これは、頭の中で物事を負担に感じる気持ちが減れば、体は最高のパフォーマンスを発揮できるということだ。以下では、そのために役立つ方法を紹介する。

  1. あらかじめ脳の疲れを予防する。
    ワークアウトに全力で取り組みたければ、事前に精神的疲労を防いでおくことが重要だとイタリア・ボローニャ大学生物医学および神経運動科学科教授サミュエル・マルコーラ博士は語る。そのためには、ワークアウトを行うかなり前からできる限りの準備(前日にサーキットの内容、ウェア、プレイリストを決めておく)をして、当日に発生しかねない問題への対応策を考えておくこと。7時間から9時間の睡眠を取った後に行えば、ワークアウトも、そのための準備も楽になったと感じられるだろう。
  2. セッションの前に回復しておく。
    朝から晩まで立て続けにミーティングがある日など、精神的疲労を避けられない場合もある。疲労が正確にはどのくらい続くのかは、まだほとんど科学的に証明されていないが、適切なリカバリーには「時間がかかり、疲労を引き起こす原因を避けることが必要」だと、シルバ博士は語る。マーティンが勧めるのは、脳をリセットできる20-30分間の昼寝。また、エネルギーレベルが低いと脳にアデノシンが蓄積しやすくなるため、ワークアウト前に胃腸にやさしい軽食を取るのもおすすめだという。
  3. コーヒーを1杯飲んでみる。
    カフェインの構造はアデノシンと似ているため、アデノシンの受容体と結合すると、この複合物の効果をブロックできる可能性がある。また、マルコーラ博士の研究によると、カフェインはエクササイズ中に脳の運動前野と運動領域の活動を減らし、その時の自覚的運動強度(RPE)を下げるという。セッションの約30分前にコーヒーを飲めば、もっと力強く、もっと長い間動けるようになるかもしれない。
  4. 脳をだます。
    いろいろと対策をしたが、やはり脳がワークアウトに対する気力をくじいていると感じる場合でも、諦める必要はない。自覚的運動量は、音楽(ハードに取り組みたければ、テンポの速いものを選ぶこと)、自分への語りかけ(「私はもっとできる」ではなく、「君ならもっとできる」と二人称で語りかけること)、さらには笑顔を作るだけでも減らせるという研究結果が出ている。笑顔には効率性、つまりセッションに費やすエネルギー量を向上させる効果もある。
  5. ただの「感覚」だと意識する。
    頭の中の声がどんなに大声で「あと1分間は無理だ!」と叫んでも、それはただ頭の中にしかないことを覚えておこう。これは「痛くてもう無理だ!」と叫ぶ筋肉や関節の声ではない。「この限界は知覚的なものだと理解しておくことで、自分のベストを尽くせたという感想を数人から聞いています」マルコーラ博士は語る。だから、「もうできない」という感覚はただの感覚であり、乗り越えられるという事実に目を向けてみよう。少し視点を変えるだけでも、十分な効果を得られるかもしれない。
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