精神的な疲れに負けず、ワークアウトを続ける方法

Coaching

精神的に疲れていると、頭と心が「もうやめようよ」と体に語りかけてくる。そんな時でも、意欲と筋力をキープする秘策をチェック。

最終更新日:2022年6月30日
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  • 精神的に疲れているときは、いつものワークアウトが負担に感じられ、パフォーマンスや目標達成に支障をきたすこともある。
  • ワークアウトの事前準備、自分への語りかけ、昼寝による回復などで、脳の疲れがもたらす悪影響は抑えられる。
  • 悩みと無縁のワークアウトをこなすには、トレーナーが指南するNTCのクラスや、NRCの音声ガイドランがおすすめ。


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精神的エネルギーを高めて運動能力をアップ

いつもなら心地よい1kmあたり6分のペースが、今朝はまるで4分代で走っているようにつらい。そんな疲れを感じるときは、筋肉よりも精神面の問題を抱えている可能性がある。

学術誌『Medicine and Science in Sport and Exercise』(スポーツとエクササイズの医療科学)で、プロの長距離ランナーを対象にした興味深い実験の結果が発表された。コンピューターの早押しゲームに45分間興じた後と、ドキュメンタリー映画を視聴した後で、それぞれ自分が限界を感じるまで走り続けるランニングテストを実施。その結果、同じランナーでも、ゲーム後よりドキュメンタリー視聴後のほうが早くギブアップする傾向が見られたのだという。両方のテストを比較すると、心拍数、酸素消費量、乳酸濃度は同じ。つまり、体ではなく、脳が何らかのダメージを受けていると推察された。

「精神疲労は、疲労の体感量を増やします」と説明するのは、この研究を主導したブラジルのブルーノ・モレイラ・シルバ博士(サンパウロ大学生理学科准教授)。疲労の体感量は、自覚的運動強度(RPE)とも呼ばれ、ランニング中に費やした労力を主観的に捉えた指標で表される。ドキュメンタリー視聴後に長く走れなかったのは、視聴が精神疲労をもたらしたからだと考えられる。

精神疲労の科学

15kmのランや高負荷トレーニングのHIITに取り組めば、体は疲れる。まったく同様に、長時間労働の後や、たった数分間でもハードなタスクをこなした後は、精神的に疲れてしまうことがある。オーストラリアのクリスティ・マーティン(キャンベラ大学スポーツ運動研究所准教授)によると、「脳の疲れ」と表現されるような精神疲労を引き起こす仕事は、「できれば避けたいタスク」と定義することもできる。つまり非常に難しい仕事や、極度に退屈な仕事のことだ。

脳の疲れによって悪影響を被るのは、特定の強度でエアロバイクを走らせる能力、プランクなどのアイソメトリックエクササイズで一定の姿勢をキープする能力、一定のスピードで1,500mを泳ぐ能力などである。その一方で、20秒ダッシュのような運動にはそれほど影響しない。マーティンによれば、持久力を要するアクティビティほど主体的なペース配分が求められ、「まだ続けよう」と決断するのに精神的な労力が費やされるからだという。「精神疲労は疲労の体感量を増やすため、時間が経つにつれて運動の継続を決断できなくなってきます」とマーティン。もう一方の20秒ダッシュは、考えたりモチベーションを失ったりする時間的な余裕が少ないので、精神疲労の影響も少なくて済むのだ。

脳の疲れの兆候は、簡単に特定できる。力が入らない、、頑張れない、気分にムラがある、反応が鈍い、注意力が散漫、動きが不正確といった症状だ。マーティンと同僚が最近の研究結果としてまとめた学説によると、原因は「アデノシン」にある。アデノシンは体内で生成され、運動負荷の自覚、タスクへの忍耐力、労力と報酬の比較などをつかさどる脳の部位に影響を与える(アデノシン自体は、ハードな心身のアクティビティによって生成される)。アデノシンが脳内に蓄積されるほど、ペダルを踏み続けたり、プランクをキープしたり、泳ぎ続けたりするために、脳がより強力な信号を送らなければならない。タスクの負荷が増えたように感じる原因はここにある。アデノシンはモチベーションを調節するドーパミンの放出も抑えるため、二重に精神面へのダメージを与えてしまう。

だからといって、失望しないで欲しい。頭の中にある負担さえ減らせば、体は最高のパフォーマンスが発揮できる。以下に具体的な方法を紹介しよう。

精神的エネルギーを高めて運動能力をアップ

1. あらかじめ脳の疲れを予防する。

ワークアウトに全力で取り組みたければ、事前に精神的疲労を防いでおくことが重要だ。そう指摘するのは、イタリアのサミュエル・マルコーラ博士(ボローニャ大学生物医学科および神経運動科学科教授)。ワークアウトのかなり前から、できる限りの準備をしておこう(前日までにサーキットの内容、ウェア、プレイリストなどを決めておく)。そして予想される問題(寝坊や残業など)への対策も考えておくこと。7-9時間の睡眠を取った後、ワークアウトの準備が万端であるとわかっていれば、ワークアウト自体の負担も軽くなるはずだ。

2. セッション前に回復しておく。

朝から晩までミーティングでびっしりの日など、精神疲労を避けられない場合もある。このような疲労がいつまで続くのか、まだ科学的には解明されていない。それでも適切なリカバリーには時間がかかり、疲労を引き起こす原因を避けることが必要なのだとシルバ博士は語る。マーティンが勧めるのは、脳をリセットできる20-30分間の昼寝。エネルギーレベルが低いと脳にアデノシンが蓄積しやすくなるため、ワークアウト前に消化のよい軽食を摂るのもおすすめだという。

3. コーヒーを1杯飲んでみる。

カフェインの分子構造は、アデノシンと似ている。そのためアデノシンの受容体とうまく結合すれば、アデノシンの効果をブロックできる可能性がある。マルコーラ博士の研究によると、カフェインはエクササイズ中に脳の運動前野と運動領域の活動を減らし、その時点での自覚的運動強度(RPE)を下げる。セッションの約30分前にコーヒーを1杯飲めば、運動時のパワーや持続力が増すかもしれない。

4. 脳をだます。

自覚的運動量は、音楽(ハードに取り組みたければ、テンポの速い曲を選ぶこと)、自分への語りかけ(「私はもっとできる」ではなく「君ならもっとできる」と二人称で語りかけるのがコツ)、さらには笑顔を作るだけでも減らせるという研究結果がある。笑顔には、運動に費やすエネルギーの効率を改善させる効果もある。

5. 「ただの感覚」に過ぎないと意識する。

頭の中で「あと1分なんて無理!」と叫ぶ声がこだましても、所詮それは「頭の中の声」でしかない。「痛くてもう無理!」と叫ぶ筋肉や関節の声とは別物だ。「この限界は、知覚的なものに過ぎない。そう理解しておくことで、自分のベストが出せたという体験談を何人ものアスリートが教えてくれました」とマルコーラ博士。ほんの少し視点を変えるだけで、いつもと同じ力を発揮できるかもしれない。

文:ジェイミー・ミラー
絵:ダビデ・ボナッツィ

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公開日:2022年4月18日

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