アイスバスによる5つのリカバリー効果

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冷水に浸かると、なぜスポーツ競技のパフォーマンスと健康状態全般のサポートにつながるのか、そのメカニズムを解説。

最終更新日:2024年4月9日
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アイスバスによる5つのリカバリー効果

アイスバス(氷風呂)は、高強度の運動後のリカバリー速度を速め、パフォーマンスを高める効果があるとして、かなり以前からアスリートたちに取り入れられてきた。 このリカバリー手法の起源は、古代ギリシャまでさかのぼり、当時は今よりも一般的で、多くの人々が実践していた。

そんなアイスバスは、リカバリーを促すために、フィットネスルーティンに加えるべきものなのだろうか? また、どのようなメカニズムで効果をもたらすのだろうか? Nike Well Collectiveのパフォーマンスコーチであり、ニューヨークのIce Cold ClubでACE認定パーソナルトレーナー兼クリエイターとして活躍するローレン・シュラム(毎週のアイスバスセッションの指導を担当)と、理学療法士のローラ・バレッカがあらゆる疑問に答え、 アイスバスに期待できるワークアウト後のリカバリー効果について解説。

さらに、睡眠やストレス、健康状態全般の改善といった、アイスバスの一般的な効用に関する研究についても取り上げる。

アイスバスによる5つのリカバリー効果

アイスバスとは?

その名のとおり、アイスバスには、何袋もの氷と冷水を満たしたバスタブや、アイスバス専用の浴槽を使用する。

アイスバスは、冷水浸漬法(CWI)というスポーツ療法の一種で、疲労を最小限に抑え、運動後のリカバリープロセスを促進させるために行うと、バレッカは言う。 CWIではたいてい、かなり冷たい(15℃以下)風呂やプールにつかる。

ワークアウト後すぐにアイスバスに飛び込むという手法は、低温にさらして血流を遅くすると、室温環境に戻ったときにより速く血液が循環するようになるという原理に基づくと、バレッカは話す。 「血液循環が良くなることで、傷ついた筋肉により速いペースで血液を届けることができ、回復プロセスの促進だけでなく筋肉の炎症緩和にもつながります」

ちょっとだけ冷水につかったり、数分間全身浴をしたりする手法もあれば、腕や脚など体の一部だけを水に浸すというやり方もある。

ただ、研究によれば、ワークアウト後のリカバリー効果を高めるのなら、アイスバスにつかる時間は11~15分が望ましい。 その時間の根拠について(なぜそれを実践すべきなのかについても)、詳しく見ていこう。

アイスバスに秘められたメリットとは?

総じてCWIに関する研究は限定的。アイスバスのリカバリー効果となればなおのことだ。そのうえ、このテーマに関する研究のほとんどは、エリートアスリートを対象に実施されたものだとバレッカは言う。 しかし、アイスバス、あるいは冷水シャワーには、心身に効果をもたらすことを裏付ける、強力な事例証拠がある。

1. 体温を下げる

高温の環境下で運動する場合や、高温多湿の時期に運動して体温が上昇しがちなとき、アイスバスに入るとワークアウト後の火照った体をすばやくクールダウンできるのではないだろうか。

『Medicine & Science in Sports & Exercise』に2015年に掲載されたレビュー記事では、10℃前後のアイスバスに10分つかるだけで、運動によって引き起こされる高体温症(熱性疲労熱中症などを起こすほど体が熱を持つこと)に効果的に対処できることが示されている。

アイスバスによる5つのリカバリー効果

2. 筋肉痛を和らげる

エリートアスリートは、リカバリーを早め、筋肉の回復プロセスの副作用である遅発性筋肉痛を和らげるためにアイスバスを利用すると、バレッカは話す。

アメリカスポーツ医学会によれば、ウェイトリフティングの重量を上げる、エクササイズの回数を増やす、普段より長時間ワークアウトを行うといったように高強度の運動に取り組むと、筋繊維に微細な断裂が生じる。 体がこの損傷に対応しようと炎症を引き起こすため、エクササイズに励んだ後1~2日経って痛みを感じることがあるのだ。

2015年に『Sports Medicine』で発表された、9つの研究を横断するメタ分析では、即効性と遅発効果という点で、CWI療法の方がパッシブリカバリー(完全休養)より筋肉痛への効果が高いという結論が出た。

ハードなワークアウトの後にアイスバスに入ると、その効果を大いに実感できることを覚えておこう。 「筋肉が傷ついたときに利用すると効果的です」とバレッカは述べている。 もう少し説明しておこう。高強度のワークアウトに取り組んだり、ワークアウトの量を増やしたりすると、筋繊維に細かい断裂が生じることがある。 その結果、炎症が起きて、傷ついた筋繊維の修復や再生が始まるというわけだ。

たとえばランナーであれば、かなりの長距離ランや高強度のランを行った後や、長い距離を走った週などにアイスバスが有効だと、バレッカは話す。

また、CWIに関する多くの研究から、アイスバスによって疲労の感じ方が変わることがわかったという。 つまり、アイスバスによって筋肉が回復すると感じられれば大成功だということだ。 とはいえ、ほかにもリカバリーの手段はたくさんあるので、無理にアイスバスを取り入れる必要はないと、バレッカは付け加える。

Journal of Physiology』に2017年に掲載された研究では、運動後の筋肉痛の軽減効果について、水泳、フォームローリング、ストレッチなどのアクティブリカバリーとアイスバスを比較。 研究者らは、運動後の炎症を抑えるという点で言えば、CWIと他のアクティブリカバリーに効果の差はないことを突き止めた。 それよりむしろ、このリカバリー手法は、競技や大会などで短時間で回復する必要がある場合(競技の合間のクロスフィット選手など)に有効だと結論付けている。

3. よく眠れるようになる

徹夜したことがある人は、睡眠が基本的な認知機能に関わることを知っているだろう。睡眠がアスリートのパフォーマンスやリカバリーの鍵を握るというのも頷ける。徐波睡眠(深い睡眠とも呼ばれることが多い)が筋肉の修復を助けることを明らかにした研究もある。

同時に、睡眠の重要な要素が、深部体温を維持しようとする体温調節だ。 深部体温は睡眠中に自然に低くなる。部屋を涼しくすると眠りに落ちやすく、ぐっすり眠れるという話を聞いたことがあるのはこのためだ。 同じ理屈で、体温を下げるアイスバスは、睡眠の質の向上にも効果的と言える。

男性の長距離ランナーを対象にした2021年の小規模な研究では、全身のCWIが、覚醒(睡眠中の脳の活動の上昇)や手足の動き(繰り返し生じて睡眠の妨げになりうる筋肉の動き)を減らし、徐波睡眠にプラスの効果をもたらすことがわかった。 この研究論文では、就寝時間間際のCWI(この場合は冷水シャワーも含む)が、睡眠の質の向上や、高強度の運動後の神経と筋肉の回復を助けてくれそうだと結論付けている。

4. 免疫システムを強化する

習慣的に冷たい水の中で泳ぐアスリートは、ウイルスに感染することが少なく、感染しても症状が軽いことを示す証拠は複数ある。 アイスバスに風邪の予防効果があるかどうかについてはまだ結論が出ていないが、冷水浴などの生理的ストレスを短時間加えることが、感染症との戦いに備える免疫システムを助けるのではないかというは、信頼できそうだ。

冷水浴というショック療法で感染症と戦う血液細胞である白血球を刺激できるかどうかについては、研究が続けられている

ヴィム・ホフ(80分間氷水で全身浴をした記録を持つオランダのアイスバス提唱者)の事例に基づき、2014年の小規模な研究では、CWIなどの手法を実践することで、風邪などの感染症を予防する力を強化できる可能性があることがわかった。

この研究において、瞑想や呼吸法のほか、冷水浴を含め体を低温にさらす訓練を10日間受けた対象者は、訓練を受けなかった対象者より、インフルエンザのような症状が出た人が少なかった。 CWIによる影響を区別するのは難しいが、確かにリカバリーのルーティンも「実践することによって良くなる」ことを示す理由にはなる。

アイスバスによる5つのリカバリー効果

5. ストレスを緩和し、メンタルの回復を助ける

冷水療法はメンタルヘルスに効果があると経験から考える人は多い。

「状況に不安やストレスを感じたときは、今行っていることを中断して2分ほど冷たいシャワーを浴びると、心の持ちようが変わります」とシュラムは話す。

『International Journal of Environmental Research and Public Health』に掲載された2020年の研究では、冷水での水泳(アイススイミング)には、健康全般の向上に加え、緊張や疲労、抑鬱気分の緩和などの精神的な効用があることが判明した。

この説明として、CWIによってストレスに対する闘争・逃走反応を司る神経系の一部が刺激されるためだとシュラムは言う。 CWIを習慣にすると、この反応が抑制され、生活の中で他のストレスにもっとうまく対処できそうな気分になる可能性がある。

シュラムいわく、アイスバスは「心身のストレスを解消する手段。 ストレスへの対処の仕方を練習する機会になり、それを日常生活で実践できるようになるんです」

アイスバスによる5つのリカバリー効果

どれくらいの頻度でアイスバスを取り入れるべきか、 また、どのくらいの時間入る必要があるか?

バレッカは、アイスバスは多くても週に1~2回までとアドバイスしている。 そして、実践しやすい日々のルーティンがあれば、そこから健康上の別のメリットが得られる場合もあると付け加える。 シュラムは、メンタルヘルス向上のために毎日アイスバスに入り、旅行の際は冷水シャワーを浴びる。

アイスバスセッションのクライアントにシュラムが勧めるのは、デンマーク出身の研究者であるスザンナ・ソベルグが推奨する、1週間に11分アイスバスにつかるという手法だ。 通常、3分半のセッションを3回に分けて行う。

数分耐えるだけでも言うほど簡単ではないが、3分経つまで待つ価値はある。3分経つとまひの効果が現れ、楽に感じ始めるとバレッカは話し、 リカバリーの促進に最適な時間は、1回あたり11~15分だと付け加える。

アイスバスのリスクとは?

アイスバスはいくつかのリスクを伴う。 既往症がある場合は、まず医師の許可を得るべきだとシュラムは言う。

たとえば、高血圧や循環器疾患、傷口が癒えていないけが、寒さに対する感受性が高まったり血液循環に障害が起きたりする疾患がある人にとっては、アイスバスはリスクにもなる、とバレッカ。 さらに、子どもや妊娠中の人もやめておくべきだと続ける。

アイスバスを実践する妨げになるような疾患がない場合の主なリスクは低体温症。体の自然な発熱ペースを上回る速度で体温が失われる、医療措置が必要な緊急事態のひとつだ。長時間アイスバスにつかり過ぎると低体温症を引き起こすとバレッカは述べている。

「体内で何が起きているかを考えてみてください。血流も、血液の循環も遅くなるのです。 なので、15分以上入るべきではありません」

独りでアイスバスに入らないようにすることも重要。初めての場合はなおさらだ。 同じく、低体温症や寒冷ショックの兆候に気を付けることも大事だ。 めまいがしたり、ひどい震えが起きたりしたら、すぐに水から出よう。

体にいいという話を人から聞いたからではなく、自分がアイスバスを試したいと思うときだけチャレンジすること。 「密室や寒さが苦手な人は、おそらく楽しめないでしょう。無理をする必要はありません」とバレッカは言う。

自宅でアイスバスはできる? 冷水シャワーでも同じ効果は得られる?

自宅でもアイスバスを用意できるが、大量の氷をバスタブに入れない限り、十分に温度を下げる(10℃以下)のは難しいと、バレッカは述べている。

水を冷たく清潔に保てる自宅用のアイスバスを購入することも可能だが、費用がかかる。

「専用のバスタブをわざわざ買う必要はありません」とシュラムは言う。 シュラムのアイスバスワークショップでは、どこででも楽に実践できるよう受講者をサポートしている。 温泉施設の水風呂につかったり、湖や海へ飛び込んだり。自宅や旅行先で冷水シャワーを浴びてもいい。

冷水シャワーがアイスバスと同程度の効果をもたらすことは、研究でも示されている。 ネットボールのトッププレーヤーを対象にしたある小規模な研究では、温水と冷水を1分間ずつ交互に浴びる温冷交互シャワーをトレーニングの後に14分間取り入れたところ、温水と冷水に交互につかる温冷交互浴と同程度のリカバリー促進効果が得られた。

シュラムが説明するアイスバスの手順はこうだ。いつものようにシャワーを浴びた後、風呂から出る。冷水にして(凍えるほど冷たくする必要はない)、深く息を吸ってからすべて吐く。 再び息を吸ったら息を止めて、冷水に入る。

結論として、アイスバスは試すべきだろうか?

アイスバスの実践によって、一定の健康効果を得られることはいくつかの研究で示されている。万人に適しているとは言えないが、それでも問題はないだろう。 CWIを試してみる場合は、事前に主治医に相談した上で、訓練を受けた専門家の指導を受けられる安全な環境下で行うこと。

また、アイスバスの効果が実感できた場合でも、その他の効果的なリカバリー手法はこれまで通り実践しよう。 バレッカによると、アイスバスは「即効性があるわけでも、一度だけで効くわけでもありません」やはり、フォームローラーを使ったり、スポーツマッサージを受けたりする方法も見過ごせない。 また、けがをしている人は必ず理学療法士に相談してほしいとバレッカは言う。 「サポートが不可欠。独りで取り組むべきではありません」


文:カイリー・ギルバート

アイスバスによる5つのリカバリー効果

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公開日:2023年11月21日

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