ランニングコーチが解説する、最適なランニングペースの見つけ方
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ランニングペースに変化をつけることが、けがを防いで自己ベストを短縮するために不可欠である理由について解説する。
レースに向けてトレーニングに励むときも、毎日のランをただ楽しみたいときも、常にスピードを上げて走るという取り組み方は持続可能ではないし、必ずしも健全とは言えない。 短期間にスピードを上げ過ぎると、けがを引き起こすおそれがあるからだ。
テキサス州オースティンを拠点とするRogue Runningのランニングコーチを務めながら、自らもマラソンランナーとして活躍するジェームズ・ドッズはこう説明する。「トレーニングでは毎回同じ走り方をするべきではありません。 気軽に走る日と、ハードなトレーニングに取り組む日に、それぞれどんなペースで走ればよいかがわかれば、レース当日に万全の備えができ、トレーニングによるけがの予防にもつながります」
では、最適なランニングペースを知り、実際にそのペースで走れているかどうかを判断するにはどうすればよいだろうか。 まずは、ペースを示す特定の数値よりも、感覚に着目することが大事だ。とはいえ、数値を完全に無視してよいわけではない。
最適なランニングペースの見つけ方に関するランニングコーチのアドバイスをチェックしてみよう。
最適なランニングペースを知ることがなぜ重要か?
レースを目指してトレーニングに励むときも、屋外でのランニングをただ楽しむときも、最適なランニングペースを知ることが重要な基礎となる。 自分に適したペースを見つけることで、どんなランに取り組むにしても、基礎となる大切な土台ができるのだ。 たとえば、ロングランのペースは、ショートランや強度の高いワークアウトのペースとは異なる。
トレーニングを始めて2~3週間以上経った初心者ランナーは、最適なペースでトレーニングをすれば、特に効果が上がるかもしれない。 Nike Runningコーチのジェス・ウッズは、初心者は感覚を意識して走ることが望ましいと述べている。トレーニングが進むにつれて、ペースとキツさの感覚の結びつき(ペースによってどの程度ハードに感じるか)を理解し始めたランナーならなおさらだ。
最適なランニングペースを見つけるには?
ドッズとウッズがともに勧める、最適なランニングペースを見つける方法は、トラックでタイムトライアルを行うこと。 タイムトライアルは、トレーニングのサイクルやシーズンごとに行い、通常は新しくレースや距離の目標を設定してトレーニングを始めるときにリセットする。
タイムトライアルで走る距離は、コーチや目指すレースの距離によって異なる。 また、レースに出るためのトレーニングをするのかどうかによっても変わる。楽しく走るための最適なペースを見つけたいというような場合もあるだろう。 たとえば、ウッズがアスリートに指示するタイムトライアルは3K(400mトラックで7.5周)だが、ドッズが勧めるのは2マイルまたは5K(3.1マイル、400mトラック12.5周)のタイムトライアルだ。
こういった距離にかかわらず、タイムトライアルには重要なポイントが1つある。それは、1マイル以上走ることだ。 これより短いと、フィットネスの判定には「物足りない」とウッズは話す。 ただ、ランニングを習慣に取り入れたばかりの初心者なら、とりあえずは1マイルのタイムトライアルが最善の方法だ。
では、そのタイムトライアルはどのように実施すればよいか。 ウッズが勧めるのは、全力でのトラック走だ。 走り終えたらフィニッシュタイムを記録し、ペース計算ツールに入力してみよう。 タイムトライアルでのスプリットタイムを基に、ハーフマラソンやフルマラソンの最適なペースが算出されるだけでなく、リカバリーランやテンポランなど他のトレーニングに最適なペースも提示される。 また、初心者が徐々に距離を伸ばすときに、どの程度のペースを目標にすればよいかの判断材料にもなる。
ただ、ペース計算ツールでは、最も快適に走れるペースのヒントになる数値が推定されるに過ぎない。 だからこそ、ペースに幅を持たせておくことがとても重要なのだ。リカバリーラン(あるいはテンポラン)の最適なペースは、日によって違うかもしれない。 また、心拍数を計測しながら走れば、どんな日もリカバリーに最適なペースを判断しやすくなる。
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一般的にランニングのペースに幅を持たせるのはなぜか?
気軽なラン向けのペースにはかなりの幅がある(1マイルあたり9分20秒~10分15秒)と、ウッズは認める。 リカバリーランは、毎回さまざまな要因によって左右されるからだ。 たとえば、走る路面や地形、その日の天候、ランニング前の栄養や水分の補給状態、その時々のストレスレベルなど、多数の要因が影響する。
だから、どんなタイプのランも、最適なペースは常に一定とは限らないし、それでも問題はない。
「ペースに重要な側面があるとすれば、それは常に幅があるということです」と話すのは、Nike Runningグローバルヘッドコーチのクリス・ベネット。「このペースと特定するのではなく、このぐらいのペース、という風に幅を持たせます。ランナーとしての自分は、毎日同じ状態ではないからです」
レースペースに幅を持たせて正確に表示してくれるペース計算ツールはあまり多くないことを知っておかねばならない。それでも、トレーニングの際はその数値を参考にすればよい。 これにより、さまざまなペースに対するキツさの感覚がわかるようになり(ランニングの際に時計を忘れたときは特に重要)、次のトレーニングを変更する際の判断材料にもなる。
「タイムトライアルが役に立つもう一つの理由はここにあります。 ツールでは、個人のストレス負荷、睡眠の質、暑さや環境までは考慮してくれないので、完璧な数値を算出することは重要ではありません」とドッズは話す。
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「感覚に基づいたランニング」は自然に身につく。
感覚に基づいたランニングを行う、つまりキツさの感覚を意識して走ることで、算出されたレースペース(あるいは気軽なランニングペース)が実際に自分に適しているかどうかがわかる。 自分に合っていない場合、それは、目標とするレースペースや気軽なランのペースを調整しなければならないことを示すサインだ。
「最初はキツく感じるものです。その努力がランの効果を導きます。数値が向上するのはその後。 努力して成果が出れば、数値はついてきます」とベネットは言う。
2018年に『International Journal of Exercise Science』に掲載された小規模な研究では、感覚に基づいたランニングを行うことで、最適なペースが判断できるようになることが示されている。 この研究では、ランナーに外部からのフィードバックを与え(ペースに関してフィードバックを与えない場合や、以前より遅いペースで走るよう指示する場合も含む)、自発的なペースや強度(つまり感覚に基づいたランニング)に影響を与えるかどうかを確認した。
フィードバックなし、正確なフィードバックを与える、誤ったフィードバックを与える、トレッドミルのディスプレイを隠すといったように条件を変えても、4回にわたる30分のトレッドミルランニングで、対象者のペースは自然にほぼ自発的なペースに近づき、そのペースを維持した。
進歩を記録する。
数週間にわたってランやワークアウトの記録を取るうちに、最適なランニングペースが明確にわかるようになる。 ベネットは、トレーニングの全体像を捉えるために、トレーニングの記録やランニング日誌をつけ、トレーニングサイクルを1つのストーリーとして捉えるようアドバイスする。
「トレーニングをストーリーとして捉えると、毎回のワークアウトから学びが得られるはずです。 どんなワークアウトに取り組んだのか、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか。スピードランの後は長距離ランに取り組むべきではないこともわかります。 このペースなら有意義なトレーニングになるが、別のペースでは少し速すぎるというように判断できるようになるでしょう」
ベネットは、トレーニングが進歩するにつれて、これまでのペースが楽に感じられるようになることが多く、そうなるとキツさの感覚が少し変わるだろうとも述べている。 専門家からのランニングに関するさまざまなアドバイスをチェックするには、Nike Run Clubアプリをダウンロードしよう。
文:アシュリー・ローレッタ