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ASK THE COACH コーチに聞く:「チームでの協調性を身に付けるには?」
Coaching
チームメイトと協力するよりも、自分が一番になりたいと願う若い水泳選手。それに対して、コーチのパトリック・サングは意外なアドバイスをする。

コーチに聞くは、スポーツの成果を上げるヒントが満載のコラム。
質問:
コーチへ
私は高校の女子水泳チームに所属しています。強豪チームで、いろいろな大会で優れた成績を残していますが、個人種目では互いに競う場合もあります。私にとってチームメイトはとても親しい友人たちですが、プールに飛び込んだとたん、どうしても徹底的に勝ちたくなるんです。一番になりたいという気持ちが強すぎて、チームより自分優先になりつつあります。チームメイトを出し抜くために心理的に揺さぶりをかけてみたり、プールの外での出来事を秘密にしたりします。何を食べて、いつワークアウトに取り組んで、どれくらい眠っているかということさえ話したくないんです。自分勝手だと思いますし、最悪な気分になります。こんな状態が続くせいでパフォーマンスにも悪い影響が出てきました。良いチームメイトになり、さらにチームで一番の水泳選手になることはできるでしょうか?
ストロークには自信がある
16歳の水泳選手より
回答:
もしかしたらあなたは「チームが最優先」という言葉だけを聞かされてきて、今でも周囲にいる誰もがその言葉を繰り返し口にしているのかもしれません。しかし、個人としてトレーニングに励み、互いに競いたいと願うのはごく自然なこと。一方で、グループトレーニングから得られるスキルや強さもあり、それが「徹底的に勝つ」ために役立つのも確かです。
……誰よりも優れている必要なんてなく、昨日の自分を超えるように努力するだけでよいことに気づくでしょう。
私のランニングキャンプでは、選手たちがグループに分かれて練習しています。しかしトレーニングでは必ず、グループを構成するのは個人であることに注意しています。事実、新しい選手が入ってくると、まず私はその人個人について理解しようと努め、アスリートとしての強み、教育水準、競争へと駆り立てるモチベーションを確かめます。それに基づいてコーチングの手法を各ランナーに合わせて調整し、彼らが目標を設定してそれを達成できるようにサポートするのです。
経験から言うと、選手はチームで練習する方がそれぞれの目標に向けて確実に前進できます。たとえば、持久力とコントロールを向上させたいと思っているランナーがいたとすると、4、5人の仲間と一緒に行うトレーニングが効果的。絶えず先頭に立とうとするのではなく集団を維持しながら、個々の選手はエネルギーを大切に使い、長時間の競争に耐え、ここぞというときに加速することを学ぶのです。
あなたは、トレーニングとレースで周囲の人々全員に勝ちたいと願っているようですが、どちらの場合もそうした姿勢は必ずしもプラスに働くとは限りません。

たとえば、5,000メートルを13分30秒で走る選手がいたとしましょう。もし、参加者の20%が12分台で走るレースに出場する場合、その選手は20%の人々について思い悩むべきでしょうか?答えはノー。代わりに、現実的になって、自分のタイムを13分20秒に縮めることに集中すべきです。他のランナーの実力を基準にして目標を設定しようとすると、無理な距離やタイムに挑む羽目になるかもしれません。そうなると、けがをしたり、弱気になったり、あるいは思考停止に陥ったりする恐れさえあるのです。
一方で、自分の実力に集中すれば、自分へのプレッシャーを和らげることができます。プレッシャーの大きい大会でも「これは努力して成長するチャンスなんだ」と自分に話しかけてみましょう。そうすれば、誰よりも優れている必要なんてなく、昨日の自分を超えるように努力するだけでよいことに気づくでしょう。心に余裕ができて、チームメイトの成功も喜べるかもしれません。
コーチングを始めたとき、私はまだ現役のプロランナーだったので、個人種目ではライバルとなるチームメイトをコーチすることもありました。その中の一人、バーナード・バルマサイは、1997年に障害物競争の世界新記録を樹立しましたが、偶然にも同じレースで、私も自己ベスト記録を更新したのです。
私はバーナードに嫉妬し、金メダル獲得をうらやましく思ったでしょうか?そんなことはありません。バーナードの勝利のために力を尽くしたと感じていたので、それが報われた喜びを分かち合っていました。それに、自分個人の成績についても全力で挑んだ結果だったので非常に誇らしく感じていました。集中して自分の持てる力をすべて出し切った人は、結果はどうあれ、必ず満足感を得ることができるものです。
とは言え、常に周囲の人々に合わせる必要はありません。多少「自分勝手」にふるまう方が成長できる場合もある。個人競技の選手として練習の機会が不足していると感じるなら、コーチに相談してみるべきでしょう。
私も、クロスカントリーの大学代表チームに所属していた頃、同じような経験をしました。毎朝、最初の授業の開始時刻ぎりぎりまでグループトレーニングをしていましたが、それでは長すぎると私たちは感じていました。そこで、チーム全体の意見として、個人トレーニングを行いたいとコーチに訴えたのです。コーチは最初ためらっていましたが、私たちは本当に重要な場面で結果を出すことを約束しました。そしてハードな個人練習に打ち込んで、その年、チームとして「徹底的に勝つ」ことができたのです。
チームでのトレーニングは個人競技に役立つし、個人トレーニングはチームにもメリットをもたらします。長期的に見てどちらに重点を置くとしても、最高のライバルは自分自身。そう考えれば、チームメイトの勝利もどんどんお祝いできるようになるでしょう。
サングコーチ
元ランナーのパトリック・サングは、現在ケニアのランニングコーチを務めている。ケニアを代表する世界的なランナーとして、1991年に世界陸上競技選手権、1992年のオリンピック、1993年には世界陸上の3,000メートル障害でそれぞれ銀メダルを獲得。大学時代はテキサス大学オースティン校を拠点に活躍し、3,000メートル障害で学生新記録を樹立した。
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写真:カイル・ウィークス
