強いランナーになるための7つの習慣
Coaching
もっと速くなりたい、もっと持久力を向上させたい、あるいは単にもっとエネルギッシュに走りたい。それなら、いくつかの習慣を日常生活に取り入れてみては?
人は走っているときだけランナーなのではない。1日の残りの23時間もランナーだということを意識しているだろうか。偉大なランナーたちは、走っていない時間もずっと、パフォーマンスアップに役立つ健康的な習慣を実行している。
専門家による以下のヒントは、ライフスタイルを根底から変えるものではないが、生活をアップグレードすることができる。自他ともに認めるランナーになりたかったら、この中からできるだけ多くのヒントを日常生活に取り入れてみよう。そうすれば、ランも体も、どんな時も調子がいいことに気づくだろう。
1. 筋トレはスマートに
ランニングは下半身のスポーツのように思われているふしがあるが、実際はほとんど全身の筋肉グループを使うスポーツだ。だから、全身の筋力トレーニングを行えば、強いランナーになれるだけでなく、全身のバランスが良くなり、怪我をしにくくなる。そう語るのはベック・ウィルコック(ロサンゼルスを拠点とするNike Run Clubコーチ)だ。
ランニングを向上させようと思ったら、強くなることはもちろん、抜群の安定性を身につけることも必要。「片足で着地するたびに、まっすぐの姿勢を保つこと。左右のどちらにもねじれたり曲がったりしないように、全身のバランスを取ることが重要です」と言うのは、ジャネット・ハミルトン(アトランタ州のコーチング会社「ランニング・ストロング」オーナー、ストレングスアンドコンディショニングコーチ)。
そのための具体的なトレーニング方法として、「ランニングのときと同じパターンで筋肉に負荷を与えること」を提案するのは、イアン・クライン(オハイオ大学運動生理学者、クロストレーニング/外傷予防専門)。筋力をアップしながら、バランスも鍛えられる一石二鳥の方法。それは、ランニング時の片側だけの動きを模倣する動きや、体幹を使って安定性を強化する動きを取り入れた片足のエクササイズを重点的に行うことだ。これらのどちらか、または両方を兼ね備えたエクササイズとして、たとえば、ランジ、ステップアップ、片足でのデッドリフトなどをやってみよう。
できれば週3回以上、いつもの筋力トレーニングに、プランクのような体幹エクササイズのセットと片足での動きを追加しよう。回数は5回でも20回でもOK。筋力が疲労を感じる程度で、なおかつ正しいフォームを保てる回数を設定すること、とハミルトンは言う。筋力トレーニングの初心者なら、ウェイトを使わずにトレーニングしてもかまわない。リフティングに慣れている人は、ダンベルやバーベル、メディシンボールなどを使ってみよう。片足での動きは難しいので、軽いトレーニングから始めて、徐々に負荷を増やしていこう。
2. 十分に水分補給する
長距離ランやレースの予定があるなら、常に水分補給を怠らないように気をつけよう。これは意外に難しいので、予定の1週間前から水をたくさん飲むことを常に意識しよう。前日の夜や当日に水をたくさん飲んでも、それまでのトレーニングで脱水症状が引き起こしたパフォーマンス低下は相殺できないと言うのは、ライアン・マシエル(管理栄養士、プレジション・ニュートリション パフォーマンスニュートリションヘッドコーチ)。
汗をかくと、体が正常に機能するために必要な電解質や水分が失われる。また、発汗を助けるために血液の大部分が筋肉から皮膚に移動するので、筋肉の血流量も普段より少なくなるとマシエルは言う。血流量が少なくなると、筋肉も強さや持久力が低下する。また、心臓も残った血液を送り出そうと働きが活発になるので、心血管レベルにも負荷がかかる。これでは、いつもの爽やかなランが無意味なものになってしまう。
水分補給は、パフォーマンスを向上させるだけでなく、頭脳の明晰さを保つのにも役立つ。『Medicine and Science in Sports and Exercise(スポーツと運動における医学と科学の研究誌)』に掲載されたメタ分析によれば、脱水症状によって体重が2%以上減少すると、認知機能に悪影響を及ぼすと言う。そうなると、ランニング中の追い込みが難しくなる(そして、一般的には機転を働かせることもできなくなる)。
マシエルは、体力とエネルギー(気力も含めて)を維持するために、1日に12-16杯の水を飲むことをアスリートに勧めている。これは、起きている間、1時間ごとにコップ1杯の水を飲むのに相当する。エクササイズで大量の汗をかいたら、その分を増やすとよい。
「ワークアウトで体を温めるのと同様に、ワークアウトが終わったら体をクールダウンする必要があります。それには、ゆっくりしたストレッチが適しています」
クリス・ベネット
(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)
3.ランニング後はストレッチを楽しむ
「ワークアウトで体を温めるのと同様に、ワークアウトが終わったら体をクールダウンする必要があります。それには、ゆっくりしたストレッチが適しています」と言うのは、ベネットコーチとしてお馴染みのクリス・ベネット(Nikeグローバルランニング シニアディレクター)。このクールダウン期間は、体を負荷から解放し、もう一度日常のストレスに飛び込む前に回復プロセスを促進するのに役立つ。「時間をかける必要はありませんが、リラックスして丁寧にストレッチを行いましょう」とベネットコーチはアドバイスする。
ロビン・ラロンド(Nike Run Clubシカゴ コーチ)は、ふくらはぎ、ハムストリング、大臀筋、梨状筋(大臀筋の後ろにある小さい筋肉)など、硬くなりがちな部分をすべて忘れずにほぐすことを勧めている。何から始めればいいかわからない場合は、以下の3つの動きを試してみよう。
壁を使ったふくらはぎのストレッチ
ストレッチする筋肉:ふくらはぎ
壁に向かって30センチほど離れて立つ。両手と左足の指の付け根を壁につけ、かかとを床につけた状態から開始する。両脚をまっすぐにして、ストレッチ効果を高めるために腰を前に押し出す。3-4秒そのままの姿勢を保ち、開始時の姿勢に戻る。これを1回として、左右を入れ替えて繰り返す。
ハムストリング スイープ
ストレッチする筋肉:ハムストリング
両腕をまっすぐに下ろして立ち、左脚を前に伸ばし、かかとを床につけてつま先を上に向け、右脚を曲げた状態から開始する。腰を後ろに引き、背中を伸ばしたまま左のつま先に向かって腕を伸ばす。3秒間そのままの姿勢を保った後、体を起こして両腕を頭上に振り上げ、元の姿勢に戻る。これを3回繰り返したら、左右を入れ替えて繰り返す。
スタンディング フィギュア フォー
ストレッチする筋肉:大臀筋、梨状筋
両腕をまっすぐに下ろして立ち、左足首を右膝の上で右脚に交差させ、左膝が外側に向いて曲がった状態から開始する。腰を後ろに引いて、バランスを取りながらできるだけ深くスクワットをする。3-5秒そのままの姿勢を保ち、最初の状態に戻る。3回繰り返したら、左右を入れ替えて繰り返す。
4.計画を立てる
ランニングは、いつでもどんな日でも、好きなだけ行うことができる。しかし、1週間のトレーニングプランを立てて、いつ、どこで、どれぐらいの距離を走るのかを決めれば、もっと積極的にランニングに取り組むことができる。これはつまり、何をするかを決めることでモチベーションが上がり、ランニングを生活の一部として定着させるための一貫性が生まれるからだとベネットコーチは言う。
計画を立てるときは、持久力を高める長距離ラン、スピードを向上させるスプリントやインターバル、ハードなトレーニングからの回復を促すリラックスしたランという、3つの重要なタイプのワークアウトを組み合わせよう。これらの相乗作用で、バランスの良いランナーになることができるとベネットコーチはアドバイスする。もっと詳しいガイドが必要な場合は、Nike Run Clubアプリのトレーニングプランで、5キロランからマラソンまでのアドバイスをチェックしよう(試合のためのトレーニングでなくても、同じように効果がある)。
一貫性には別の効果もある。「病気や休暇、長引いた会議などにも柔軟に対応できるようになります」とベネットコーチは語る。普段一貫性を保っているランナーなら、ワークアウトを数回休んだり短縮したりしても、フィットネスにそれほど大きな影響は出ないはずだ。
5.戦略的に食事をする
しっかりとしたトレーニングマップがパフォーマンスを向上させるのと同様に、良い食事プランも最高の状態で走るのに一役買ってくれる。「1週間の食事メニューを書き込んだ簡単なカレンダーを作り、食料品リストを書き出せば、必要な買い物も一度で済みます」と、マシエルは言う。もっと効率を求めるなら、ランニングのトレーニングプランを書いたカレンダーと同じものを使ってみよう。そうすれば、食事がどのようにランニングに役立ったかも自覚できるだろう。このように食事の計画を立てれば、寝過ごして朝食を考える時間がないときや、遅く帰宅して献立で悩みたくないときなど、止むを得ない状況にあっても、適切に栄養を補給することができる。
食事に何を食べればよいかについては、マシエルからのアドバイスを参考にしよう。1回の食事に、タンパク質(鶏肉、魚、豆、豆腐)を手のひら1-2杯分、野菜(できれば色とりどりに)をこぶし1-2つ分、炭水化物(フルーツ、全粒粉)を1握りまたは2握り分、ヘルシーな脂肪(アボカド、ナッツ、オリーブオイル)を親指1-2本分摂取するのが理想的だ。
6.入浴してから寝る
睡眠は、完全に無料で(そして努力なしに)パフォーマンスを向上させてくれるツール。睡眠の効果を最大限に引き出すには、ベッドに入る約90分前にお風呂に入ったり、シャワーを浴びたりするとよい。科学者たちは、これを「パッシブヒーティング」と呼んでいる。
温かい風呂やシャワーは、体温調節機能を刺激し、手や足の血流を促進する。それが体温を下げて体をクールダウンするのに役立つと言うと不思議に聞こえるかもしれないが、これは、一般的に眠りにつく1時間前から始まる自然な体温低下に加えて起きるもの。そう説明するのは、シェリル・マー博士(UCSFヒューマンパフォーマンスセンター医師兼科学者、Nike Performance Councilメンバー)。エリートアスリートの睡眠とパフォーマンスを専門に研究している博士いわく、「研究では、このようなパッシブヒーティングは、入眠時間を短縮し、回復に重要な深い眠りの時間を長くすることが実証されています」温かい風呂やシャワーは、少なくとも体をくつろがせ、清潔な状態でベッドに入るのに役立つ。
7.落ち着く時間を作り、少しずつ増やす
ランニングには、良い意味での中毒性がある。だからといって、エキサイトして長く走りすぎたり、スピードを上げすぎたりすると、せっかくのトレーニングも逆効果。「ランナーにありがちな問題は、使いすぎによる損傷です。体の組織に負荷をかけすぎたり、回復にかける時間が少なすぎたりすることが原因で起きます」と言うのは、デビッド・マクヘンリー(Nikeのエリートアスリート担当理学療法士、ストレングスコーチ)。このような怪我には、足裏の筋膜炎、アキレス腱炎、腸脛靭帯症候群、後脛骨筋腱炎などがある。
ランニングの努力を無駄にしないために、モビリティワーク(ヨガなど)やアクティブリカバリー(気楽なハイキングやゆっくりとした短時間のリカバリーラン)も取り入れよう。これらはすべて、肉体面でも精神面でも、ランをパワーアップするのに役立つ。
そして、トレーニング量を増やすときは、ほんの少しずつにすること。具体的には、道路の1区画を2周するぐらいだ。時間をかけて走行距離を伸ばしていき、週に10%以上増やさないようにしよう。そうすれば、怪我をする可能性も低くなる。
結局のところ、自分の体を大切にケアしていれば、いくらでも走る距離を伸ばしていくことができるのだ。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:グラシア・ラム