新しいヒーロー

Athletes*

辻沙絵

最終更新日:2021年7月2日
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右腕の先天性前腕欠損を抱えながら、高校ではハンドボールで全国大会にも出場した辻沙絵選手。大学進学がきっかけで、陸上短距離へ転向するとともにパラスポーツ界へ。今までハンディをカバーすることに注力していた彼女は、陸上を通じてありのままの自分で勝負する楽しさを知る。

パラスポーツを始めた頃は、その世界に懐疑的だった彼女は、世界大会への挑戦や結果を残すことで、パラスポーツ選手としての意識も変化していく。彼女の陸上を通じた気づきや伝えたいメッセージとは?

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大学でハンドボールから陸上短距離への転向を打診された時はどんな気分でしたか?

辻沙絵:ハンドボールで、腕がある選手と何1つ引け目なく戦ってきて、むしろ他の子たちよりうまく出来る自信もあったし、戦えている自信もありました。だから、どうして今さら障がい者というくくりに私を押し込むのかなと思っていて。最初は、一生懸命頑張って来た自分を否定されたような気持ちだったんですね。障がいがあるなしに関わらず、一生懸命頑張ってきたことは無駄だったのかなって。でも、障がい者スポーツの映像を見たり選手の話を聞いてみて、障がい者スポーツの方でも、そうでないスポーツの方でも活躍している、私と同じ腕の選手がいらっしゃって。両方出られるのは私だけの特典なのかなと気持ちが変わったりして。将来的に目指していた体育の先生になった時に、ハンドボールだけやっている先生より、世界を知っている先生の方が子供たちに伝えられることが多いんじゃないかなって、その時は思って。だめだったらやめようといった気持ちで始めましたね。

「どうして今さら障がい者というくくりに私を押し込むのかな」

-辻沙絵

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両立していたハンドボールを辞めて、陸上短距離に絞ったきっかけを教えてください。

辻沙絵:2015年にあった世界大会で、最終的に1つに絞ることが出来たんですけれど。それまで、パラスポーツに対してあんまり良いイメージがなかったんですね。障がい者が内々で楽しんでいるようなスポーツという認識をしていて。けれど、実際に世界大会に出場した時に「そうじゃないんだ。スポーツに障がいは関係ない」ということを身を持って知ることが出来たんですね。日本の選手が走り幅跳びで金メダルを獲る瞬間を見て、すごく鳥肌立って感動して、私もそういう選手みたいになってみたいと思ったんです。世界選手権が終わって、次どうしようって考えた時に、今しかないものに懸けてみたいなっていう気持ちになって、ハンドボールを一旦お休みすることを決めました。

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「スポーツに障がいは関係ないということを身を持って知ることが出来た」

-辻沙絵

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リオの400mで銅メダルを獲得してからのストーリーを教えてください。

辻沙絵:リオが終わって、世界が一気に変わってしまって。常に見られている感覚から逃れたい気持ちでした。華やかなメディアに取り上げてもらったことで、泥臭い練習に気持ちが戻らなくて全然練習しなかったんですね。このままじゃだめだって、続けてメダルを獲ることが自分の実力を示す結果なのかなと感じましたし、監督からもそう言ってもらいました。2017年の3月からトレーニングを再開して、世界選手権でもう1度メダルを獲ることができました。でも世界選手権の試合前、十分な練習をしてないから自信がなくて気持ちがナーバスだったんです。もうこういう気持ちで走りたくないと思って練習をしたんですが、翌年のアジア大会でもやっぱり甘いところがあって。その次の世界選手権は本当に自分との気持ちに負けた。自信も無くなっていたし、戦うことから逃げてしまった自分もいたなっていう感じでした。うまくいっているように見えて全然うまくいってなかった。でも、陸上選手として歳を重ねることで陸上の楽しさもわかってきて、もう一度自分に自信をつけて走りたい。信じてくれる監督に応えたいっていう気持ちになりました。

「自信も無くなっていたし、戦うことから逃げてしまった自分もいた」

-辻沙絵

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パラスポーツは、辻選手にどんな意識変化をもたらしましたか?

辻沙絵:パラ陸上を始める前は腕がないことがコンプレックスで、他のみんなと同じようになりたかったし、同じようになろうと無理をしていました。でも、パラ陸上を始めて障がいがありながら最大限の努力をしている方々と出会い、ありのままの自分を受け入れることができました。それまで言いづらかった「できないことはできない」ってことも、素直に声に出して誰かを頼ってもいいと思えたのもその辺りからです。今は「みんなと同じがいい」から、「みんな同じじゃつまらない」という考え方に変わりましたね。多くの人がパラスポーツ選手に、障がいを乗り越えて強いというイメージがあると思います。でも、それは少し違うなって思う瞬間があります。私も受容までにたくさんの苦悩や葛藤がありましたし、今もたまに悩むことも。けど、今はそのおかげで自分のことが大好きになったし、人生が楽しいとも思えるようになりました。だから「障がいを乗り越えた、受け入れた=強い」っていうのは違うかなって。同じ境遇の方にはいろんなことに挑戦して、人生が楽しい、自分を好きと思えることがいちばんだと思います。パラスポーツ選手は体の使い方をいろいろと工夫していて、例えば筋力が落ちてしまったご高齢の方にも有益な情報の1つになるのかなと。障がいの有無に関わらず、人生の1つのヒントとして見てもらうのも良いのではないかと感じています。

「今はみんなと同じがいいから、みんな同じじゃつまらないという考え方に変わった」

-辻沙絵

辻沙絵とNikeのチャレンジ、Play Newをチェック。一緒に歩もう。

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公開日:2021年7月4日