呼吸でパフォーマンスを高める
Coaching
呼吸はランニングのパフォーマンスを左右する。専門家によると、正しい呼吸テクニックは、より少ないエネルギーでスピード、強度、距離をレベルアップするのに役立つという。
呼吸なんて当たり前すぎて工夫のしようがないと思うかもしれない。私たちは24時間365日、何も考えずに呼吸をしている。しかし、今よりもっと楽に走れる簡単な方法を探しているなら、自分の呼吸の仕方に少し意識を向けてみるいい機会だ。
胸式呼吸ではうまく走れない
「ほとんどの人は24時間胸で息をしています」と話すのは、ベリサ・ブラニッチ博士(臨床心理学者、『Breathing for Warriors』の著者)。胸式呼吸は自然な呼吸だが、肺のごく一部しか使われておらず、より多くの酸素を取り込むためには呼吸を速くする必要があると博士は言う。
胸式呼吸で走るとどうなるか。「筋肉に十分な酸素が行き渡りません」クリス・ベネット(Nikeグローバルランニング シニアディレクター、別名「ベネットコーチ」)は説明する。それだけではない。「私たちは空気を十分に取り込めていないと感じると、本能的に息をたくさん吸います。すると呼吸はさらに浅くなります」こうなると何もかもがますますつらくなり、すぐに休憩したくなってしまう。
腹式呼吸は呼吸を楽にする
ヨガや瞑想のインストラクターと同じく、ブラニッチ博士も横隔膜呼吸(腹式呼吸)を勧める。その名の通り、肺の下の横隔膜を使って「水平に(お腹を膨らませたりへこませたりして)」呼吸をするテクニックだ。この方法で呼吸をすると、横隔膜が傘のように広がったり閉じたりして、肺に酸素のスペースが生まれる。横隔膜は肋骨の下のほうにあり、ちょうど肺の底の酸素をもっとも多く取り込める場所にあたる。
ブラニッチ博士によると、腹式呼吸は複数回の浅い呼吸と同じ量の酸素を1回で取り込める、効率的な呼吸法だ。腹式呼吸をランに取り入れれば、筋肉にたくさんの酸素が供給され、ペースアップや長距離ランが楽になるという。
腹式呼吸をすれば、ほぼ確実に深く息を吸い深く吐くことになるため、心拍数を下げる効果がある、とベネットコーチは言う。ヨガで腹式呼吸が重視されるのも、さまざまな研究で不安や抑うつ、不眠などの症状を緩和するテクニックとして腹式呼吸が挙げられるのも、そういう理由からだ。
また、同じ理由から、ベネットコーチは自分がランをコントロールできていないと感じると、腹式呼吸に立ち返ってみるという。「走っていて、つらいと感じたりパニックになったりしたときは、少し時間をとって何回か深呼吸をするのが一番です。乱れていたランが落ち着いて、また走り続けられます」腹式呼吸に違和感があるという人がこの呼吸法を取り入れても、10kmランのペースアップは期待できないだろう(自己記録更新を目指しているときに、深い腹式呼吸に集中できる人はいない)。しかし、何かがおかしくなっているときに、自分のランを(フィジカル的にもメンタル的にも)取り戻すのには役立つはずだ。
「走っていて、つらいと感じたりパニックになったりしたときは、少し時間をとって何回か深呼吸をするのが一番です。乱れていたランが落ち着いて、また続けられます」
クリス・ベネット
Nikeグローバルランニング シニアディレクター
ランの効率を上げるための方法として、ブラニッチ博士はランの前、最中、後の腹式呼吸を支持している。それに対してベネットコーチは、(極度に息があがっているとき以外は)走り方に影響が出たり、呼吸のことで頭がいっぱいになるような呼吸をしてはいけないと指導する。ランニングのその他の要素と同様、呼吸に関しても、自分にぴったりのやり方が見つかるまで試行錯誤を繰り返すことが重要だ。
腹式呼吸を練習する3つの方法
ランのとき、あるいはソファーの上で腹式呼吸を試してみたいという人は、ブラニッチ博士が提唱するエクササイズで練習してみよう。それは、時間のあるときに(今すぐでも)20回の腹式呼吸をするというもの。
- 理想的な立位呼吸
両腕を自然におろした状態で立ち、息を吸いながらお腹を前に膨らませる。お尻が少し後ろに突き出した姿勢になるように、背中を軽く反らす。息を吐くときは、お腹をへこませて腹筋の下半分に力を入れ、お尻を内側に引き込むようにする(お尻に手を当てて軽くつかむと動きを理解しやすい)。お腹と骨盤だけを動かして、首、胸、肩は動かさない。 - ロックンロール
椅子の背もたれに背中を付けないようにして座る。または、床にブランケットや枕などを置いて少し高くし、その上に脚を組んで座る。息を吸うときは、前かがみになりながらお腹を膨らませる(細身の人が正しい姿勢を取るためには、最初にお腹を「押し出す」感覚で。太めの人は、お腹を解放するような、あるいは膝の上に乗せるような感覚で)。息を吐くときは、ソファーに沈み込むように体を後ろに倒し、お腹をへこませてウエストを引き締め、完全に息を吐き切る。 - ブックリフト
床に仰向けになって、へその上に大きな本を1冊乗せる。本を見ながら(視界の一番下に本が入るように)、本を持ち上げるつもりで息を吸い、息を吐くときは本が下がるようにする。呼吸をすると、腰が少し回転する感覚があり、息を吸うと腰が床から離れる。このときの動作を意識して、やや大げさになるくらいに行う。
腹式呼吸に関する知識はこれで完璧。不調を感じ始めたら、いつでもこの方法を実践してランのコントロールを取り戻そう。
NRCの音声ガイドランで「Mindful Miles」を試してみよう。
文:アシュリー・マテオ
イラスト:ケシア・ガブリエラ