運動がストレスを和らげる仕組み
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運動がコルチゾールを下げ、エンドルフィンを増やし、睡眠を改善することでストレスを軽減する仕組みを学ぼう。この記事では、ストレス解消に最適なワークアウトと、メンタルヘルスを向上させるための運動の頻度を紹介する。

良質なワークアウトは、自分を生まれ変わらせてくれる。仕事が大変な日、友人との口論、目が回るほどの忙しいスケジュールといった困難に直面すると、人はストレスを感じ、そのプレッシャーに押しつぶされそうになることがある。そんなときに必要になるのが、効果的な不安の解消法だ。ストレス管理のテクニックの1つとして、身体的な活動が挙げられる。ここでは、運動がストレスを軽減する仕組みを説明しよう。
簡潔に言うと、運動は健康的なライフスタイルの重要な一部だ。そして、心の健康と身体的健康の間には無視できない関連性がある。
脳は運動に強く好ましい反応を示す。身体的な活動は脳の配線を生化学的なレベルで変え、より効果的にストレスを処理できるようにしてくれる。だからこそ、科学者やヘルスケアの専門家の多くが、慢性的なストレスに対抗するためのツールとして運動を推奨している。頻繁な運動には、投薬と同じような治療効果がある。その効力は、趣味としての楽しみにもひけをとらない。
概要:
・運動には、ストレスホルモンを減らし、エンドルフィンやセロトニンなどを放出することで気分を高める効果がある。
・最適な方法:有酸素運動、筋力運動、モビリティエクササイズが挙げられ、これらはすべて効果的だが、楽しみながら続けられるものが理想的だ。
・運動時間:1日30分、週3〜5日を目標にしよう。
・効果を実感できるまでの時間:何より重要なのは継続性。効果を実感するには数週間かかる場合があることを覚えておこう。
・誰にでも効果的な運動というものはない。自分のニーズに合った運動を見つけるために、ゆっくりと慎重に運動を始めることが重要だ。
人は体を動かすようにできている。しかし、CDCによると、2020年には、成人のうち、有酸素運動と筋力トレーニングの両方において『Physical Activity Guidelines for Americans(アメリカ人のための運動ガイドライン)』が示す必要水準を満たしている人はわずか24.2%であり、これがストレスレベルの上昇に影響している可能性があるという。アメリカ人の大半はいすに座ってばかりの生活を送っており、運転やデスクワークなど、1日のかなりの時間を座って過ごしている人は多い。米国ストレス研究所によると、77%の人が体の健康に影響が出るほどの強いストレスを感じている。
もちろん、身体的な活動の不足だけがストレスの原因ではないが、運動が脳に強い影響を与えることは事実なのだ。
運動がストレスを軽減させる仕組み
「生理学的反応と自己申告アンケートの両方を調査した研究では、定期的な運動が身体と脳のストレスへの反応を変えることが示されています」と、Exercise Intelligenceの創設者であるグレゴリー・ゴードン(MA、CSCS、MATRx)は言う。
運動をすると、心拍数が上がる。その拍動で全身に送り込まれる血流量が増加して、運動中の筋肉や、脳などの重要な臓器に酸素や栄養素を運ぶのだ。ある研究では、慢性的にストレスを溜めていると、前頭前皮質などの感情処理をつかさどる脳領域への血流量が低下するという相関関係が指摘されている。運動で脳への血流が増えると、ストレスの蓄積による悪影響を緩和できると考えられており、こうした現象は、脳がストレスのような感情をより効果的に処理するうえでの助けとなる。
また、運動は脳由来神経栄養因子(BDNF)やエンドルフィン、そしてセロトニン、ドーパミンなどの幸福感をつかさどる神経伝達物といった、脳の働きを活性化させる分子の放出も誘発するという。
BDNFのようなタンパク質は、神経の健康を維持し、神経発生の過程における新たな神経の成長を促進する。神経発生は、学習、記憶、不安とストレスの制御に関係する脳領域である海馬に、直接的な影響を与える。
ストレスは、大人の神経発生を減少させる。それに伴い、海馬の大きさと機能が低下することでストレスレベルが悪化し、抑うつなどの症状につながっていくのだ。事実、MRIを使った研究では、重度の抑うつの人は、そうではない人と比べ海馬の体積が少ないことが明らかになっている。
ランニングのような有酸素運動は、海馬に著しいプラス効果があることが確認されている。有酸素運動が成人後期のエピソード記憶に与える影響を調査した2022年の研究では、週3日、15~90分の運動を約6か月間行うことで、エピソード記憶が改善されることがわかった。
運動中に放出されるエンドルフィンは、ストレスに立ち向かううえで役に立つ。天然の鎮痛剤とも言われるエンドルフィンは脳内でオピオイド受容体と結びつくと、痛みの感覚を和らげて幸福感を生み出す。人が「ランナーズハイ」を経験することがあるのは、そのためだ。
運動中に放出されるドーパミンやセロトニンのような、幸福感を与えてくれる各種の神経伝達物質もまた、ストレスと闘ってくれる。それらは脳の快楽系と報酬系を制御している物質で、気分を調整し、希望に満ちた気持ちをもたらす。慢性的なストレスは脳内のドーパミン分泌量を低下させるが、運動はそれを回復させることができるのだ。
実際に、頻繁な運動は時間とともに脳を作り変えていく。脳内に設置されている受容体が増えて、ドーパミンの循環を高い水準で体感できるようになり、それによって幸福感を感じやすくなり、ストレスを感じにくくなる。
「心理的に見ても、運動療法は、たとえ日常的な運動量が推奨ラインに達していない人であっても、知覚ストレスを確実に軽減する効果があります」とゴードンは言う。「治験の参加者からも、一貫して運動すると、圧倒されるような感覚が少なくなり、睡眠が改善され、日々のストレスからより早く回復できるという声が聞かれました」
2014年に発表された、ある研究では、被験者に高いストレスを感じる作業をしてもらい、その前後で心拍数、血流量、コルチゾール量、主観的な気分がどのように変化していたかを測定した。頻繁に運動をしていた被験者は、低い心拍数を維持し、実験を通してよい気分のまま安定していた。この結果を受けて、感情面での回復力とストレスへの対応力は運動で高めることができると結論づけられている。
ストレス解消に最適な運動の種類
どんなタイプの運動にも、精神衛生上のメリットがあることは明白だが、その中でも有酸素運動、特にランニングは、ストレス発散に効果的であることが証明されている。このような運動でストレス発散を行えば、気分を向上させ、日常生活のストレス要因に対処できる。
流れるような動きで全身を動かせば、思考から抜け出して身体に集中でき、呼吸と体の動きを同調させることで、さらに「今」に集中できるようになるのだ。研究者たちが、マインドフルネスを実践する活動としてランニングを挙げているのはそのためだろう。
マインドフルネスや瞑想を実践すれば、戦闘・逃避モードから効果的に抜け出して、副交感神経がつかさどる休息・消化モードに入ることができる。そして、副交感神経優位の状態では、筋肉が弛緩し、神経系が沈静化し、心身がなストレスから解放されるのだ。
ランニングがマインドフルネスをもたらす行為であり、瞑想よりも効果的であるならば、非常に強力なストレス発散法と言えるだろう。ランニング中は深い呼吸を続けるように心がけることで、気持ちをリセットしてストレス発散効果を最大限に高めよう。ランニングは、すぐにエンドルフィンを放出するだけでなく、睡眠の質や脳機能を改善して、長期的なストレスの軽減にも役立つという。
トレッドミルでのランニングが好きでない方には、屋外でのランニングをおすすめしたい。屋外でのランニングも、ストレスレベルとメンタルヘルスに関して優れた効果があることが、研究で明らかになっている。
『Medicine & Science in Sports & Exercise』誌に掲載された研究では、ランニングをした被験者は、しなかった被験者に比べて、ストレスレベルと感情的反応が低下した。これはおそらく、運動による神経の再編によるものだろう。
ランニングが自分に向いていなかったとしても、心配する必要はない。どのような身体活動でも、ストレスレベルの改善には役立つため、ストレスの管理計画に活用することができる。2021年に発表された研究では、コロナ禍のロックダウンで人々にもたらされた不安、ストレス、抑うつの症状が、中程度から高強度の運動によって低下したことが判明した。
また、太極拳やヨガといった負担の少ない運動を行うのも良い。研究によると、これらのスポーツの呼吸と瞑想という要素が運動のメリットと組み合わせられることで、ストレスに対抗できるという。2018年の研究では、太極拳はその他の中程度の運動と同じくらい不安を低減させることが明らかになっている。また、ヨガのマインドフルな動きは、闘争・逃走反応を落ち着かせ、ストレスホルモンを減少させ、蓄積された身体的緊張を和らげる効果がある。
ただし、特定の運動やそのメリットを、万能のアプローチと見なしてはならないことには留意しておきたい。大切なのは自分にとって最適だと感じる運動を見つけることだ。それが有酸素運動でも、ウェイトトレーニングでも、ヨガだったとしても構わないので、体を動かしてストレスを発散しよう。
ストレス管理に有効な運動の頻度
世界最大級の医療センター、メイヨークリニックによると、1日あたり30分以上の運動を、週3〜5回を目標に取り組むとよいとされている。こうした運動はストレス、抑うつ、不安に伴う諸症状を大幅に改善してくれる。1日30分の運動を行う余裕がなければ、毎日10〜15分の運動を組み込むだけでもストレスレベルに大きな違いが生まれるだろう。
運動のストレス発散効果を即座に実感できる人もいるだろうが、継続的な変化が現れるまでも数週間以上は運動計画をやり通すようにしよう。
目標は、週に約150分の中程度の運動、または75分の激しい運動を行うこと。さらに可能であれば、20分間の重量挙げなど、筋肉強化の運動を行う日を2日以上追加しよう。
運動を始めたばかりの人や、健康状態に特定の不安要素がある人など、より慎重なアプローチを取る必要がある場合は、慎重に始め、安全な方法でスタミナを付けていくことが重要だ。
安全上のヒントと注意が必要な人
新しい運動を始めるときは、何よりもまず、自分の体の声に耳を傾け、細心の注意を払うことが大切。ストレッチや水分補給を心がけ、ゆっくりと始めることで、効果的に運動習慣を築くことができる。すでに健康上の問題がある場合は、運動を始める前に医師に相談することを検討しよう。
ストレスを感じているときに定期的な運動を始める方法
それまでに定期的な運動を行ったことがなく、どこから手をつけてよいかわからない場合は、シンプルに、自分に合った形で20〜30分の運動をすることから始めよう。散歩に出かけたり、オンラインのヨガ動画を真似してみたり、あるいは単に曲をかけて踊ったりするのも良い。シンプルなことほど、実行に移しやすいものだ。
「コーチやトレーナーとして、心身の健康状態が良好ではない人と仕事をするときは、その人に合ったサポートする方法を見つける必要があります」とゴードンは言う。「運動プログラムを始めることが、改善のきっかけとなる人もいれば、精神科の診察を受けて薬を服用することが最適なアプローチとなる人もいます。あるいは、家庭や職場の状況を改善することが、前向きな変化を生み出すための第一歩となる人もいるのです」
よくある質問:
ストレス解消に最適な運動の種類は?
どのような運動でもストレスを和らげることができるが、ランニングやヨガは特に効果的なストレス管理方法だ。
運動でストレスを軽減できるまでに要する時間は?
1つの確実な答えというものはないが、鍵は継続することだ。散歩や瞑想を1回行うだけでも、たった30分で即座にストレスを和らげる効果が期待できる。ただし、最大限の効果を得るには、時間をかけて習慣を身に付けること。効果を実感するまでに数週間かかる人もいる。
運動によってストレスが悪化することはある?
効果的に行われない場合、運動によってストレスが悪化する可能性がある。過度の運動は、精神的なプレッシャーを生み出したり、怪我のリスクを高めたりするからだ。だからこそバランスの取れたアプローチを取り、体の声に耳を傾け、過剰な運動をしないように注意することが大切。運動がストレスや疲労の原因となっているなら、それは運動を減らす必要があることを示すサインかもしれない。
運動は瞑想と同じくらいストレス解消に効果がある?
研究によると、安全かつ適度に行う場合、運動は瞑想と同じくらいストレス解消に効果的であることがわかっている。運動には心をクリアにする働きがあるため、ある種の瞑想としての役割を果たすかもしれない。
疲れすぎている、または忙しすぎて運動できない場合の対処法は?
忙しすぎて運動が難しいと感じているなら、スケジュールに合わせて運動する方法を見つけよう。少し屋外を散歩する、デスクから離れてストレッチするなど、簡単なものでも良い。自分に合った運動をすることが重要だ。
運動を始める方法
まずは、ゴードンが提案する3つの質問について考えてみてほしい。
- 何をするのが好きか?
- 何も好きなことがなければ、何ならしたいと思えるか?
- 何もしたくない場合、どうすれば何かをするように自分を促すことができるか?
ゴードンは、運動習慣は歯磨きやシャワーと同じだと説明している。「私たちはすでに、日々多くのセルフメンテナンスに取り組んでいます。運動習慣も、そのチェックリストに追加するべきものなのです」と彼は言う。自分に合った練習方法を決めたら、ゆっくりと習慣にしていこう。
そのために、小さなことからしっかり実行する。
- たとえば、1日20分、週3日など、実行できそうな時間と頻度を見つけることだ。
- 習慣を作る間は、一日一日、無理せず取り組もう。ただし、生活リズムに慣れるためにも、数週間は継続するようにしてほしい。
- 慣れてきたら、CDCが推奨する大人の運動時間である週150分に達するまで、徐々に運動量を増やしていこう。























