アルコールと睡眠の関係を専門家が解説

健康とウェルネス

今夜も1杯飲んでから眠りに就こう。そう考えているあなたに、アルコールと睡眠の関係を詳しく解説しよう。

最終更新日:2023年2月22日
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アルコールと睡眠の関係について知っておきたいこと

グラス1杯のワインやウィスキーを飲むことで、飲まない時よりも睡眠への導入がスムーズになる可能性はある。

だがほとんどの場合、この就寝前の飲酒(さらには就寝前以外を含む一般的な飲酒)は、睡眠に悪影響を与えるリスクもある。 お酒を飲んで寝た翌朝、あまり元気が回復していないと感じたことはないだろうか。あるいは寝る前よりも疲れを感じる経験はないだろうか。 寝る前にお酒を飲むと、実際には何が起きているのかを説明しよう。 アルコールは睡眠を助けるのか?

「アルコールには鎮静効果があります」と言うのは、ミシガン州アナーバーのデアドラ・コンロイ博士(ユニバーシティ・オブ・ミシガン病院行動睡眠医学クリニック臨床ディレクター)。 つまりお酒を飲むと、眠りに落ちるまでの時間が短くなる可能性がある。

アルコールを飲んだ後の方が早く眠りにつけると知っていると、そのメリットを活用するために就寝前の飲酒をしがちになる。そう説明するのは、「睡眠アンプラグド(Sleep Unplugged)」というポッドキャストのホストを務めるクリス・ウィンター医学博士(神経科医師、睡眠の専門家)だ。

「アスリートや患者さんには、いつもこう伝えています。アルコールを飲めば、睡眠の質まで良くなると考えてはいけません」 すぐ眠りに落ち、一晩中眠ることができたとしても、アルコールが睡眠サイクルに有益であることを示すわけではないのだ。

「アルコールの影響に着目すれば、睡眠の有益な回復効果をたくさん抑制してしまうことがわかります」とウィンター博士は言う。 つまり寝る前にお酒を飲むと、夜中に目が覚めて、睡眠の最も重要な段階を阻害してしまうのだ。 以下の記事で詳しく説明しよう。

アルコールが睡眠に与える影響

アルコールを飲んだ私たちの体内では、さまざまな反応が起きている。 アルコール飲料を飲んだ量や時間によって、反応が異なる場合もある。

1. 寝付きが良くなる

前述したように、アルコールには鎮静作用がある。

2013年の報告によれば、アルコールを飲むと、飲んだ量に関係なく、すぐ眠りに落ちることがわかっている。 だが飲酒をした場合、睡眠サイクルの前半に目が覚めることはあまりなかったものの、睡眠サイクルの後半に睡眠が乱れ、目が覚めてしまう傾向があった。

またアルコール飲料を適量以上に飲む人は、レム睡眠(急速眼球運動を伴う眠り)が減少し、初期の軽い睡眠段階であるノンレム睡眠が増加することがわかっている。 このせいで、朝の目覚めがすっきりしないというわけだ。 レム睡眠は、最も回復効果の高い睡眠段階であり、認知機能に不可欠とされている。 つまり、創造性、学習、記憶などにも影響する可能性がある。 人は、睡眠中にレム睡眠(およびすべての睡眠段階)を4~6回繰り返すと言われている。

2. 途中で目が覚めて、なかなか寝付けない

前述したように、眠気を誘うアルコールの効果は一晩中続くわけではない。

「体内でアルコールが代謝されると鎮静効果が薄れ、夜中に目が覚めてしまうことがあります」とコンロイ博士は言う。

アルコールには利尿作用もある。夜中にトイレに行きたくなるので、睡眠サイクルが乱れてしまうことも理解しておこう。

飲酒しない人でも、睡眠の途中で目が覚めてしまうのは普通のことだ。睡眠中に2~3回は目が覚める可能性がある。 実際、1時間に最大20回ほど短時間の覚醒が起きることもある。 しかし寝床にもぐりこむ数時間前にアルコールを摂取していると、目が覚めた後でもう一度寝付くのが難しくなる。

3. いびきが増える

アルコールが睡眠に与える影響は他にもある。 普段からいびきをかく人は、お酒を飲んだ後にいびきがひどくなるかもしれない。

「アルコールは呼吸抑制剤であるため、上気道の筋肉を緩ませ、呼吸を困難にします」とウィンター博士は言う。 つまり、いびきの音の原因である気道の狭窄が起きやすくなるのだ。

このような呼吸の乱れは、睡眠の質にも影響する。 さらに、いびきは閉塞性睡眠時無呼吸症候群の兆候となる場合もある。睡眠中に、短い呼吸停止が起きる状態だ。 このような短時間の目覚めは睡眠を妨げるため、翌日の疲労感が増して調子が悪いと感じるだろう。 寝る前の飲酒は、このような症状を悪化させる可能性がある。

研究でわかっているように、アルコールは上気道を狭窄させ、鎮静作用が睡眠中の呼吸停止を悪化させ、その頻度を上げる。その結果として、夜間の血中酸素濃度が低下する可能性もある。 2018年のある報告とメタ分析によると、アルコールを多量に摂取する人は、アルコールをまったく摂取しない人や少ししか摂取しない人に比べて、睡眠時無呼吸症候群のリスクが25%増加することがわかっている。

4. 疲労回復を妨げる可能性がある

活動的な人や、特定のスポーツイベントに向けてトレーニングに励んでいる人は、アルコールの摂取量について考えてみたほうがいい。

2017年の報告によると、アルコールを飲むと(量の多寡を問わず)、夜間に疲労を回復するための心血管系機能が低下する。 飲酒量が多いほど睡眠中の心拍数は上がるが、これは少量のアルコールでも同じこと。 たとえば、夜に1杯のアルコール飲料を飲むと、心拍数は1分間に1.4拍増加し、3杯飲むと4拍増加する。

これは休息と消化をつかさどる副交感神経系の働きをアルコールが抑制するためだと考えられている。ちなみに、副交感神経系は、闘争・逃走反応を引き起こす交感神経と真逆の働きをする。 副交感神経系の抑制は、体力の有無に関係なく誰にでも起きることも同じ研究でわかっている。

アルコールはレム睡眠を減少させるので、疲労回復の効果も低下する。 運動で傷ついた組織や細胞の修復は、睡眠中の疲労回復段階で集中的に進められるからだ。

お酒を飲むなら、以下のヒントを参考にして休息の質を上げよう。

飲酒を完全に止める必要はない。 一部の専門家は、少量のアルコールでも長期間飲み続けると健康を害する可能性があると主張している。 だがコンロイ博士は、時々お酒を楽しむ程度なら、禁酒に固執しすぎることはないと次のようにアドバイスしている。

「アルコールは、社会的環境の中にいる私たちの文化に組み込まれています。だから私の患者さんたちにも、気楽に飲みに出かけてほしいと思っています。 社会的つながりは、私たちが元気に生活していく上でとても有益です。 飲酒のプラス面とマイナス面をよく考えながら行動しましょう」

飲酒は個人の選択だが、もし飲むのであれば、いくつか習慣を見直して睡眠への影響を軽減しよう。

1. ほどほどに飲む

米国疾病対策センターによると、適度なアルコール摂取量は、男性は1日2杯まで、女性は1日1杯までとされている。 適度な飲酒に留めておくことが重要な理由は、一度に飲む量が多ければ多いほど、体内でのアルコール代謝に時間がかかるからだ。 ゆっくり時間をかけて飲むことで、アルコールの鎮静効果を相殺したり、遅らせたりできるという研究結果も出ている

2. 寝る前の1杯よりハッピーアワーの1杯

飲酒のタイミングを考えることも、睡眠サイクルの質を維持するのに役立つ。 アルコールの鎮静効果は、飲酒直後の数時間が最も強い(コンロイ博士談)。 できれば就寝の3時間前までに、最後の1杯を飲み終えよう。 誰かと飲みに出かけているときは、時間を決めて水に切り替え、水分補給を始めるのがおすすめだ(ウィンター博士談)。

3. アルコールを1週間抜いてみる

アルコールへの身体反応や睡眠への影響も、やはり個人差がある。 アルコールが睡眠に影響を与えていると疑われるときは、自分で実験をしてみようとコンロイ博士は提案する。

「1週間、お酒を飲まずに、睡眠にどんな変化があるか観察してみましょう。 変化がある場合も、ない場合もあります」 日中の意識の明瞭度や、眠気が訪れる度合いなどに注目しよう。自分の感覚で測ってもいいし、手持ちのデバイス(スマートウォッチなど)の睡眠トラッキング機能を利用してもいいだろう。

文:ジェシカ・ミガラ

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公開日:2023年2月21日

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