最終更新日:2020年11月11日
デザイン誕生まで:ACGスミスロック

デザイン誕生まで:スミスロック

もしあの日、オレゴン州ハイデザートの2月の積雪が60cm以上になり、州知事が非常事態宣言を発令すると私たちが知っていたら、結果は違っていたかもしれない。でも、これは大自然での話。何が起こるか予測などつくはずもない。

デザイン誕生まで:ACGスミスロック

デザインのインスピレーションを求めてスミスロックの旅に出てから、ずっと雪は降り続いていた。私たちは、オフィスの照明の下を離れ、新鮮な空気に満ちた自然の中で次のACGシリーズのインスピレーションを得ると決意していた。 夏の山火事で、マリオン・フォークスからブラック・ビュートとシスターズを経てスミスロックへと通じる緩やかな山道は通行できない。スミスロックへ到達するには、オレゴン州最高峰のフッド山を2月に超えるしかなかった。

それにひるむことなく、私たち9人はその朝、底冷えのするNikeの駐車場に集合した。シューズデザイナー、アパレルデザイナー、マーケティングスタッフ、ブランドデザイナー、営業担当者が車3台に乗り込み、ビーバートンのNike本社を出発。フッド山麓のジグッザグやロードデンドロンの町を通過し、ガバメント・キャンプのはずれに来た頃、雪は本格的に降り始めた。

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道路脇の溝で18輪トレーラートラックが横転しているのを見て、私たちは「タイヤチェーンを装着」という道路標示に従うのがベストだと考えた。凍結したアスファルトの上を車が飛ぶように去っていく中、私たちは道路脇でひざまずき、助けあいながら、タイヤチェーンの説明書を解読した。ダイヤモンド型になっているかをチェックし、4mほど前進させて、たわみがあれば調節する。無事にタイヤチェーンが装着されると、ブリアードの山道を走るのに必要な駆動力がたしかに備わり、私たちは前進することができた。

デザイン誕生まで:ACGスミスロック
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走行には時間がかかった。デシューツ川を渡っている間に、午後はあっという間に過ぎていった。タイヤチェーンの装着時に推奨されている最高時速は速度40kmだが、視界が悪く、さらに低速で走らなければならない。私たちの車がようやくスミスロックに到着した時、太陽は西の雲の背後に沈みかけていた。

スミスロックは普段、日差しが降り注いでいる。オレゴン州のハイデザートは年間の日照時間が300日を超える地域なので、数インチの雪をかぶった岩山を見て驚いた。私たちは当初、スミスロックの北西側の「ミザリーリッジ」と呼ばれる所でハイキングを楽しもうと計画していた。

そこは、標高220mまですぐに上がることができ、天気が良ければ有名なモンキーフェイスの登山ルートで登山やスラックライナーを楽しむ人たちが見える。しかしその日は、荒天のため、全ての登山コースは閉鎖されていた。

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危険な山道を7時間かけて悪天候の中移動したのに目的地が閉鎖されていたら、心が折れてしまう人もいるかもしれない。しかし私たちは違っていた。車の中に数時間閉じ込められた後に外に出られるのは、それだけで天国にいるような気分だった。スミスロックのふもとの雰囲気はもはや別世界。空中の雪は全ての音を包みこみ、道路の向こう側では猛吹雪の中、馬が膝まで雪に埋もれノロノロと進んでいた。霜の降りた地面は光が発しているように見える。私たちは雪に向かって飛び出し、暗くなって周りが見えなくなるまで新雪の上で人型を作ったり、雪合戦をしながら追いかけあったりした。結局のところ、私たちの目的はスミスロックの雰囲気に浸り、そこで起こりうることを見たり感じたりし、学びを得ることだったのだ。

デザイン誕生まで:ACGスミスロック
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あたりが急に暗くなり、私たちはその晩の宿へと向かった。サトル湖畔のひなびたロッジは、オレゴン準週時代の不愛想な探鉱者にちなんで名付けられた休火山スリー・フォンガード・ジャックとジェファーソン山との間にある。ヘッドライトの向こうにぼんやりと現れたロッジは、温かな雰囲気で私たちを迎えてくれた。ほぼ空っぽの駐車場に車を停めるとタイヤは瞬く間に雪に埋まり、降りしきる雪の中、私たちは荷物を引きずってエントランスへと向かった。

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オレゴンの大自然の中では、普段でも携帯電話が使えるスポットは限られているが、この日は豪雪のため、ロッジのWi-Fiは完全に使用不能だった。家族に連絡をして、嵐を乗り切り無事であることを伝えられないのはつらかったが、外の世界と遮断されたことで、何か特別な感覚を得た。インターネットやソーシャルメディアを無限にスクロールしていると、すぐ目の前にあるものを見過ごしやすい。時には、テクノロジーの電源を切り、大自然に改めて目を向けてみることも大切だ。

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雪が降り積もったその晩、私たちは雪の日の古いしきたりに従い、火を起こし、ゆっくりとくつろいだ。湯気の立つ飲み物を手にバーに集まり、その日に考えたアイデアや気づいた事を話し合う。私たちのギアが道路上や自然環境下でどのように機能するかについてメモを比較し、性能について新しい見地を得て、次のACGシーズンにおいて、どう改善するかを議論した。デザインについて話した後に向かったロッジのラウンジには本棚があり、大衆文学から古い自然ガイド本までさまざまな本がぎっしり。外界と遮断されていた私たちは、本棚から何気なく選んだ本を順番に読みあった。メンバーの中には、これがACGの初めての旅という人もいれば、何年も参加している人もいる。Wi-Fiが繋がらず、デザインチーム皆で過ごした楽しいひと時は、ある意味、製品や機能についてのフィードバックを共有することと同じくらい大切な時間になった。

デザイン誕生まで:ACGスミスロック

本来なら皆さんにACGのフットウェアの未来をお見せしたいところだが、残念ながら、Nikeの法務部門がそうさてくれない。

翌朝の朝食後、私たちは全員ラウンジに再集合し、さらにインスピレーションセッションを行った。この時は皆が自分の荷物を持っておりてきて、今回の旅に持ってきたギアを並べ、どれが必要であったか、どれを結局使わなかったかを議論し、ユニークだと思うアウトドアギアを見せあった。その部屋には、ベテランキャンパーや都会から来たアウトドア好きがおり、彼らからも情報を得ることができた。彼らはアウトドアを楽しむ上で何が重要かについて自身の考えを述べてくれた。このちょっとしたショーアンドテルのゲームを通して、私たちは様々なパターンを認識し、新しいアイデアを練り上げ、ACGの次のシーズンに向けて動き出した。

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ロッジの駐車場を出発するころには、私たちチームの間にははっきりとした連帯感ができていた。ポートランドへ戻る途中の雪道を慎重に運転しながらも、私たちは皆やる気にあふれていた。一緒に過ごした時間にお互いが学んだことをすぐにでも形にしたかった。デザインは自然の中で行われるべきだ、と私たちが考える理由はそこにある。スタジオにいては見えないものが、見えてくるからだ。環境に親しみ、そこからのエネルギーを利用し、課題を把握し、すべての感覚を使って、ある場所で起こっていることを実体験するとどういう気持ちになるかを振り返る。そうすることで、理論を検証し、アイデアを共有し、人と場所が一体となったエネルギーの集合体を構築することができるのだ。

新しいものを作り出すために、ある場所と接点を持つ時、私たちはその場所の語り手となる。インスピレーションとして選んだそれらの場所は、自然の宝庫であり、荒々しいアウトドアならではの魔法に満ちている。私たちは地球の物語を語り、そしって地球は、私たち皆の物語の語り手となってくれる。

公開日:2020年10月29日

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